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渇水・水不足問題


 ジャカルタ水道は、需給バランスの面で慢性的な水不足問題を抱えている。首都ジャカルタの上水需要は年間 8.24 億立方メートルと見積もられているが、水道会社 PAM Jaya の供給能力は 5.61 億立方メートルしかなく、住民の多くは水道に頼らない生活をせざるを得ない。
コンパス紙が 2019 年 2月23〜24日に17歳超の首都圏住民 574 人から集めた統計によれば、飲食用以外の上水需要(インドネシア語でMCK;Mandi, Cuci, Kakus の頭字語、編者注:日本語では順に、入浴、洗濯、トイレ)を、住民の 64.1%は地下水をメインにしてまかなっている。35.2%は水道に、残り 0.5%はボトル水等に依存している(資料82)。

 上水入手の平均的な月間支出額(ルピア)(コンパス紙の同統計による)は、<地下水メイン利用者> 0: 21.5%、5万未満: 12.0%、5〜20 万:39.4%、20〜50 万: 14.4%、50万超: 3.3%、<水道メイン利用者> 5万: 5.9%、5〜20万: 46.5%、20〜50万: 35.6%、50万超: 4.5%、<ボトル水等利用者> 5〜20 万ルピア: 33.3%、20〜50万: 66.7%
現在ジャカルタの水道事業は PAM Jaya のもとで、現場業務は、西半分をフランス系 Palyja(270 万軒、普及率 60.3%)が、東半分を(元)イギリス系 Aetra(290 万軒、普及率60.4%)が受け持っている。供給能力不足で、普及率がなかなか上昇しない悪循環に陥っている。
地下水汲み上げの結果としての地盤沈降や海水の地下水浸透問題などがあり、ジャカルタ特別州は地下水の無制限使用時代はもう終わったと考えている(資料82)。

 地元メディアによると、ジャカルタ特別州が運営する水道会社「PAMJAYA」は、ダムなどの水を大量に浄水するシステムの導入を検討している(資料120)。長期化する乾期で、同州の水不足が深刻化していることが契機で、同社では現在、大量に発生している水道管からの漏水防止にも力を入れていく。気象庁(BMKG)によると現在、州内には、60 日以上雨が降らない地域が存在。メンテン、ガンビル、クマヨランなど 15 の郡が特に水不足が深刻だという。 同社のプリヤトノ・バンバン・ハルノウォ社長によると、州内の住民に供給される水道水は年々、徐々に増加。州人口に対する今年の供給率は 63・4%で、昨年から3%増加した。

  だが、今回の水不足の経験などから同社は今後、長期的に水道水の供給率を上げる方針で、ダムや河川の水を大量に浄水処理できるろ過システム「SPAM」(Sistim Penyediaan Air Minimum:この記事では「飲料水管理システム」と訳されているが、内容を読むと、急速ろ過方式の水道システムのようである。)を導入したい意向だ。これが実現すると西ジャワ州プルワカルワ県のジャティルフル・ダムから1秒間に4千リットルの水道水を供給できるといい、同社は政府や地元企業と共同で事業を進める考えだ。一方、同社では水道供給量を増やす上で、漏水についても問題視。水道管の接合部分の整備不良や水道管の破損、さらに水道管から違法に水を引く「盗水」などにより、全体の給水量に対する 19 年の漏水率は42%にも上った。同社は特別州政府の地方交付金(APBD)を財源に来年以降、約1兆7千億ルピアを投資し、漏水防止事業を開始。23 年までに漏水率を 36%、30 年までにそれを 26%まで下げたい考えだ。

 一方、ジャカルタに隣接するバンテン州タンゲランでは干ばつによる渇水問題が発生している(2019年7月、資料94)。インドネシアでは乾季(編者注:ジャカルタでは、おおむね5〜10月が乾季で、11〜4月が雨季)に水不足に直面しており、バンテン州タンゲラン市の何千もの村人たちは、厳しい乾季の下で水不足に直面している。この地域の 11 の村では、井戸水が不足し、飲料水の供給を要求している。
タンゲラン市の M.Maesal Rasyids 氏は「飲み水がない村人たちが村役場に要求書を提出し、村の役人がタンゲラン防災庁(BPBD)と地域の水道公社(PDAM)に給水を要求した。これらの機関は毎日、何十ものタンクで水を供給しており、村当局は人々に十分な量の飲料水の提供を保証している。」と述べた。一方、Tangerang BPBD 長官、Agus Suryana は、「井戸が枯渇したため、村長から水道事業者が正式な要請を受けたことを確認した。」と述べた。全国の多くの地域が干ばつに苦しんでいる。気象・気候・地球物理庁(BMKG)は、乾季は 8 月に頂点に達すると述べた。

 水不足は、インドネシア最大の観光地バリ島でも発生している(資料110)。バリ島では9 世紀から「スバック」という優れた灌漑システムを通じて、水資源を共有してきた。このシステムは、バリのヒンズー教の人々による、自然、精神世界の調和の哲学の現れともいわれ、バリ島に見られる伝統的な水利組合が現在のバリ島でも至る所で形成されており、その数は約 1,200 にも及ぶ。しかし、観光客の増大への対応と、それに伴う地下水の過剰使用により灌漑システムは運用に支障をきたし、近年の干ばつも影響し、食糧安全保障、伝統文化、生活の質が脅かされる事態に直面している。
持続可能な開発を目指す NGO である IDEP 財団の役員は、「スバックシステムは、全ての村でまだ使用されているが、水源が枯渇し、多くの水田が消滅しているため、観光業の人との間で摩擦が生じている。」と述べた。
現状、島の水資源の 65 パーセントは観光に使用されている。
●河川水の枯渇
2017 年、ストロマ・コール氏(イギリスの大学の観光地理学の上級講師)は、バリの Udayana 大学で水資源に関する会議を開催した。この会議では、状況が非常に深刻である事が明らかになった。
コール氏は過去に以下の事を論文発表している。
○バリの 400 の河川のうち、260 の河川の水が枯渇している。
○Buyan 湖(島最大の貯水池)の水位が 3.5 メートル低下。
○地下水位の低下により、バリ島の南海岸に沿って塩水が侵入し、拡大中。
観光事業を、質の高い持続可能な形態に劇的に変化させる必要がある。さもなければ、状況はさらに悪化し続けると結論づけた。
地元の慈善団体 I'm an Angel のレンコン氏は、当局が危機を悪化させたと述べた。
「政府は島中央部の湖から導水するパイプラインを建設したが、政府の資金不足と汚職のため、管路には水が流れていない。」平均的な観光客一人当たりの水使用量は、2,000〜4,000リットル/日と推定され、需給が益々ひっ迫する。。
IDEP の水プロジェクトのプログラムコーディネーターの Sayu Komang 氏の言;
「バリ島には 3 つの主要な地下水の流れがあり、ホテルは井戸から過剰に水を揚水しているため、すべて流れの形が変化・縮小し、水質も非常に悪化している。」
●雨期の遅れ
IDEP は、水危機に関する 2 つの側面からなる解決策を提示した。農村部と都市部の両方での水の保全に関する教育の実施と、地下水を補填する自然浸透涵養井戸の建設である。 島の中心部に 10 の井戸を建設中でさらに 126 の井戸を計画中、しかし、今の状態を健全な状態にするには数千の井戸が必要。
今年は、エルニーニョが原因で、乾季が長く続き、インドネシアの気象地球物理学庁は、通常 11月頃から始まる雨期は、年明けまで開始しないと警告している。その為、住民の差し迫った問題は農業用水どころか、生活に必要な水の不足である。
●観光についての議論が必要
現状、4月以降雨が降らないため、水の供給は州の給水車によって行われているが、その供給も途絶しており、住民の生活が脅かされている。
 バリ政府は、事態を深刻に受け止め始めていると、バリ州工科大学講師のSudiajeng 氏は述べた。知事は、干ばつへの対応の為、バリ島の持続可能な水管理のロードマップの作成を指示した。
 すでに稼働している 3 基のダムに加えて、2 基のダムを建設中。また深さ 32 メートルの涵養井戸と、40 の浅井戸を建設済。
しかしながら、ストロマ・コール氏(前述)は、政府が観光に対して抜本的に対策を取らなければ、状況は改善しないと述べた。島の南部以外の干ばつは、観光とは直接関係はないが、解決のためには、湖の水を、島全体に公平に分配する選択肢も考えられる。
しかしながら、湖からの水は、島の南部の観光の為に大量に使用されている状況であり、村々の水不足は、政府の施策によるものである。

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資料82: 「インドネシアで節水(前)」(2019年05月14日、2019年6月、20190605-1J.pdf
資料94: Drought triggers water crisis in Tangerang、2019年8月、20190801W.pdf
資料110: Bali: The tropical Indonesian island that is running out of water、2019年12月、20191202W.pdf
資料120: "大量浄水設備の導入を検討 ジャカルタ特別州 乾季が長期化 水不足が深刻に"、2020年3月、200301-1J.pdf
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